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トリック・オア・トリート!~ミレイナに振りまわされる彼ら~ そのろく

6話目。これがラストです。

長くかかりましたが、では、どうぞ。





―ターゲット6 ライル・ディランディ―


ふわりと、部屋の中に漂うかぼちゃの甘い香り。立ち上る湯気。
ベッドに腰掛ける部屋の主の手のなか、白い箱に収まった、きつね色に焼きあがった焼きたての
パンプキンパイに、ライルは感嘆を漏らした。
「おお、うまそうだな!」
「ありがとう」
手作りの自信作。それを喜んでもらえたことが嬉しくて。
ライルの隣に自然に腰掛けるアニューは顔を綻ばせた。

ここはトレミー内、ライルの部屋。
端末に入った「今から行くから部屋で待っていて」とのメッセージをうけ、アニューを待つこと数分。
ライルの部屋にやってきたアニューの手に在ったのは、できたてのパンプキンパイ。
「今日はハロウィンだから」と、前日から用意をしていたのだという。
ライルは軽く目を瞠り、横に座るアニューを見る。
「トレミーの操舵やら医務室の仕事やら…大変だったんじゃないのか?」
トレミーはいつも人手が足りない。マイスターだろうと操舵士だろうと、働ける人間は大抵どこかで
働いている。今日はそれほどでもないが、アロウズの追撃を警戒していた昨日までは、やれ補修だ
やれ進路変更だで、かなり忙しかった。実際ライルも、慣れない機体の修理に追われ続けていた。
第一、アニューは医者だ。操舵や機体補修の合間に、刹那とラッセの細胞代謝障害の診察もある。
「あんなに大変だったのに…わざわざ?」
「…確かに、時間を見つけるのは苦労したけれど…」
でも、きっと喜んでくれると思ったから。
「ライルと二人で、ハロウィンをお祝いしたかったから」
屈託のない笑顔がまぶしい。
大変だったろうに、自分のために、わざわざ。おそらくは、わずかな休憩時間を削ってまで。

なにかを考える前に、体は自然と動作をおこしていた。
アニューの肩を抱き、そのままそっと引き寄せて。
彼女の頬に、親愛のキスをひとつ送った。


手袋をはずし、六等分にされたパイをひとつ手に取る。適温にまで冷めたそれは、切り口からはまだ
暖かい湯気が上っていく。
断面のかぼちゃの黄色は鮮やかで、強くなった香りが食欲中枢をほどよく刺激してくる。が。
「…なんか、でかくないか?」
手に取った一切れだけでも、大きなところでライルの掌ぐらいはありそうだ。
「買い出しに出た刹那さんとティエリアさんにかぼちゃを買ってきてもらったんだけど、それが、すごく
大きくて…」
帰ってきた刹那が両手で抱えていたかぼちゃの大きさに、一瞬啞然としたものだ。
「使ったのは、結局半分だけだったの。それでもひとまわり大きくなっちゃった」
「そっか…」
つい遠い目になるライルの脳裏にまざまざと映る、巨大かぼちゃを抱えた刹那の姿。
あいつら、限度ってモンを考えろよなぁ…。
でも…まあ、過ぎたことはどうしようもないか。ライルはひとつ頭を振り、手の中のパイに意識を戻す。
「それじゃ、遠慮なくいただくよ」
「どうぞ」
しかし、ライルがかじりつこうとした、まさにその瞬間。
その場に響き渡る端末の電子音。唐突なその音に、ふたりの肩が大きく跳ねる。
ライルは慌ててポケットの端末を取り出した。が、音の発信源はライルの端末ではなく、同じように
アニューが慌てて取り出した、彼女の端末だった。アニューがその場に直立し、通信をつなげる。
「私です」
『アニュー、休憩中に悪いけれど、大至急第2格納庫に行ってちょうだい』
ベッドに腰掛けているライルの位置からでは画面が見えないが、通信の相手はどうやらスメラギの
ようだ。
「なにかあったんですか?」
『イアン経由のクロスロード君からの報告で、ケルディムのGNシールドビットに重大な不具合が
見つかったらしいの。システム面も見直さなきゃいけなくて、イアンとクロスロード君だけじゃ手が
足りないわ』
「わかりました。すぐに向かいます」
『頼むわね』
端末を閉じたアニューは、申し訳なさそうにライルを振りむいた。
「ライル、ごめんなさい。でも、あなたの機体だから」
「ああ、わかってるよ」
苦笑いで返すライルにもう一度「ごめんなさい」と言い置き、アニューはそのまま部屋を出ていく。
部屋には、ぽつんと残されたライルがひとり。ひとつ息をつき、ライルは持ったままだったパイを箱に
戻して蓋をし、備え付けデスクに置いた。
先に食べていてもアニューは怒ったりはしないだろう。だが、やはりふたりで食べたほうがおいしいに
決まっている。冷めきってしまったら、また温め直せばいいだけの話だ。
ベッドに放り出していた手袋をはめ直し、後ろに手をついて天井を見上げる。
アニューはどれくらいで戻ってくるだろうか。スメラギは「シールドビットに重大な不具合が」と言って
いた。そう簡単には終わらないかもしれない。
しかし不具合? 最後に行った戦闘ではなんの異常もなかった。それこそ、アサルトモードまで使用
したのにだ。
(なのに…不具合…?)
しばらくそのままの体勢で思考を巡らし、ライルは軽くのけぞっていた体を起こした。このままひとりで
アニューの帰りを待つくらいなら、慣れていなくても彼女と一緒に作業をしたほうがずっと有意義だ。
自分のガンダムの覚えのない不具合も気になる。………本音を言えば、彼女の姿をできる限り
視界に入れておきたいだけなのだが。
「骨抜きにされてんなあ…」
ははは、と苦笑し、ベッドから腰を浮かしたときだった。
「ストラトスさぁ~ん、いないですかあ~?」
スライド式のドアの外から聞こえる、間延びした高い声。この声は。
いったい何の用だろうとドアを開けると、ライルの想像通りの姿が部屋の前に立っていた。
「どうした、ミレイナ」
身長差25センチ以上の少女を見下ろすと、ミレイナはにっこりと笑って右手を差し出し、言った。

「ストラトスさん、トリック・オア・トリートです!」

「…あ~、なるほどね…」
今日はハロウィン。ミレイナくらいの歳なら納得もする。本来はカトリックの祭りだが、いつだったか
イアンは「AEU出身だ」と言っていた。まあCBにいる以上、国などはあまり関係ないが。
そういえば寄宿舎に入るまでは、兄妹と一緒になって菓子を貰いに回ったっけ…。
しかし、どうしようか。
「悪いな、君にあげられるもんはなにもないんだ」
「ないですか? だったら…………あれ?」
「ん?」
ふと何かに気づき首を傾げたミレイナが、鼻をひくつかせながらライルの部屋に足を踏み入れる。
「…なにか、いい匂いがするです」
きょろきょろと部屋の中を見回したミレイナは、やがて目ざとくもデスクに置かれた白い紙箱――
アニューが作ったパンプキンパイを発見した。ライルが止める間もなく中身を確認し、目を輝かせ
ながら彼を振り返る。
「おお~、おいしそうなパイです! どうしたですか、これ」
「え!? あ、いや、その…べっ別にいいじゃないか!」
「ふ~ん…?」
しどろもどろにごまかすライルを不思議そうにまじまじと見つめたが、まあいいかと思ったのか、
ミレイナはもう一度パイを見て、ライルに今度は期待のまなざしを向けた。
「それにしてもおいしそうです。ストラトスさん、このパイもらってもいいですか?」
「へ!?」
「これをくれたら、いたずらはなしでいいです!」
室内に沈黙が降った。
ライルの決断は早かった。いくら年下といえど、恋人が少ない休憩を削ってまで作ってくれたパイを
くれやってたまるか。それこそ、一切れたりともやらん!
「それはちょっと…君にあげるわけにはいかないんだ」
「えーっ、だめですか!?」
「悪いな」
できる限りやんわりと拒否するが、しかしライルの返答にミレイナは不満そうに頬を膨らませた。
だがライルの返答は変わらない。
ふくれっ面のままライルを睨んでいたミレイナだが、やがて、これならどうだといわんばかりに端末に
表示させた画像をライルの鼻先に突き出した。
映し出された画像には、かわいく髪をいじられたスメラギ、マルチーズヘアーのアレルヤ、猫耳を
生やした刹那の姿。仲間たちのあられもない姿に、ライルは一瞬言葉を失う。
「っ、これは…」
「くれないというならいたずらです! ストラトスさんもこんなふうになって、トレミーのみんなから笑い物
になるですよ!!」
「なに!?」
これがいたずら!? 冗談じゃねえ、タチ悪すぎだろ!!
青ざめるライルの脳が高速で思考を始める。選択肢は二つにひとつ。彼女にパイを渡すか、いたずら
されるか。
しばしの逡巡ののち――おとなしくパイを譲渡することが、ライルの中で決定された。
本音を言えば嫌だ。しかし、いたずらされた情けない姿をアニューに見られるのはもっと嫌だ!
(俺だって…俺にだって、男としてのプライドってもんがあるんだよぉ!)
はあ、と、重いため息をひとつ吐き出す。
「オーライ、負けたよ。一切れ持っていきな」
「わあ、ありがとうですストラトスさん!」
ミレイナの心底うれしそうな笑顔に、ライルは内心複雑だった。しかし、あんな間抜けな姿をアニューに
見せるのだけは何としても避けたい。彼女には心底すまなく思うが、一切れ先に食べてしまったことに
してしまおう。
「このパイはおいしくいただくです。それから、食堂の冷蔵庫にかぼちゃプリンがあるのでひとり
ひとつずつどうぞとクロスロードさんから伝言です。それでは、ハッピー・ハロウィンです!」
「ああ、はいはい」
ひらひらとおざなりに手を振るライルを残し、ミレイナは部屋を出ていく。――パンプキンパイの箱を
両手に抱えて。
「………って、ちょっと待てぇ!」
閉じた直後のドアから飛び出し、ライルはミレイナの後ろ姿を追った。
なんで箱ごと持ってくんだよ! 俺は一切れって言ったんだ、全部持ってけなんて言ってねえ!
通路を出てすぐの角を走り去るミレイナの背中を追い、ライルも角を曲がる。だが、その先の通路に
ツインテールの後ろ姿はない。どうやら曲がってすぐに次の角を曲がったようだ。
突き当りを左右に分かれる通路のどちらに逃げたのか。右に左に通路を見、ややあって勘まかせに
左の通路を走りだした。

30分後、ライルはミレイナを見つけられずに、トレミー内部の通路を走り回っていた。
アニューからの連絡は今のところない。部屋に戻っていつまでも帰ってこなければどこにいるのか
聞こうとするだろうから、連絡がないとうことは、おそらくシールドビットの修理がいまだ終わっていない
ということだ。
アニューが戻ってくる前に、何としてもパイを取り戻さなければ。
(部屋にも食堂にもいなかったから…あとはブリッジか!)
しばらく探し回ってもミレイナを見つけられなかったライルは現在、彼女が行きそうな場所を選出して
そこを回っている。余談だが、途中、通路の隅で暗くうずくまるアレルヤにミレイナの居場所を尋ねても
「ハレルヤ…僕は憂鬱だよ…」とライルに対しての返答は返ってこず、また別の通路で呆然と棒立ち
になっていた刹那にいたっては、がくがく揺さぶっても何の反応も示さなかった。
ともあれ、とにかく目的地についたライルは、自動ドアが開くのももどかしく、足早にブリッジ内に
踏み込んだ。
「ミレイナいるかあ!」
「ふえっ!? どうしたですかストラトスさん!?」
オペレーター席に座っていたミレイナが裏返った声を発して振りむいた。
突然のことにライルに複数の視線がむけらえるが、そんなことはおかまいなしだ。
「どうしたもこうしたもない! あのパイどうした!」
「パイって…ミレイナが持ってきたやつか?」
「ロックオンから貰ったって聞いたけど…?」
ライルのあまりの剣幕に困惑するラッセとスメラギに、ライルは焦ったようにが-っと怒鳴る。
「俺は一切れ持ってけって言ったんだ! 全部持ってっていいなんてひとっことも言ってねえ!
それでミレイナ、パイは!!」
「み、みんなで食べちゃったです!」
困ったようなミレイナの返答に、ライルはびしっと音を立てて固まった。
「……はい?」
「だからあ、ストラトスさんに貰ったパイは、みんなで食べちゃったです!」
「……ぜ、全部…か?」
「はいです。ミレイナと、ノリエガさんと、アイオンさんと、グレイスさんと、途中であったピーリスさん
にもおひとつあげたです」
「……六個、あったはずなんだが…」
「ミレイナがふたつ食べたです。とってもおいしかったですよ。本当にどうしたですか? あのパイ」
「………」
もう、言葉もなかった。


「……ろ、ロックオン?」
「どうしたのロックオン、大丈夫?」
肩を震わせ、その場に立ち尽くすライルにラッセとスメラギが声をかけるが、その声はライルには
届いていなかった。
しばしのち、沈黙のブリッジの中で、うつむいてしまったライルがかすれた声を絞り出す。
「………は…」
「は?」
ミレイナが首を傾げながらおうむ返しする。
「…は…は……は……!」


ハロウィンの、ばっかやろぉお~~~~~っっ!!!


涙交じりのその声は、多目的輸送艦プトレマイオス2に、高らかに響いたのであった。





あとがき
これにて終了です。個人的には、ライルが一番不憫だと思ってます(笑) ごめんライル☆( ̄▽ ̄)

2009/10/31 21:01 |おりだぶ小説COMMENT(0)TRACKBACK(0)  

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